サブタイトル:甘い罠と、最初のリセット
「今日のゲームは、シンプルだよ。激しいことは何もしない」
僕は、ベッドの上で緊張している彼女に、優しく、しかし絶対的な調子で告げた。 彼女に拒否権はない。ただ、僕の提示するルールを聞き、従うだけだ。
「僕が挿入して、そのまま30分間、動かずにじっとしていること。それだけ」 「君が腰を動かしたり、跳ねたりせずに、30分耐えられたら、今日はもう終わり。解放してあげる」 「そうしたら、ご褒美に、君が好きなだけ僕のをしゃぶらせてあげるし、その後は君が望む甘いセックスをしてあげるよ」
彼女の目が、少しだけ揺れた。 僕は普段、身体に触れられるのを好まない。特にフェラチオは、よほどのことがない限り許可しない、彼女にとっては幻のような「ご褒美」だ。 逆に彼女は、自分が舐められる(クンニ)のは恥ずかしがって嫌がる。 この条件は、彼女にとって最高の「飴」であり、絶対にクリアしたいミッションだ。
「……わかりました」 彼女は短く、そう答えた。 部屋に入った段階で「やります」という意思表示は許されていない。「恥ずかしいこと」「濡れること」は一切の拒絶が許されない。
第一章:視線の拘束と、奇妙な一体感
僕は、彼女の奥深くまで、ゆっくりと自身を沈め、スマホのタイマーを「30:00」にセットしてスタートさせた。 僕たちは正常位で、身体をぴったりと密着させる。
「僕から目を逸らさないこと。一瞬でも逸らしたら、ペナルティだからね」
命令と共に、静寂が訪れる。 僕は、彼女の上に覆いかぶさったまま、ニヤニヤと、意地悪な笑みを浮かべて至近距離から彼女を見下ろす。 対する彼女は、必死だ。瞬きすら惜しむように、僕の瞳を凝視している。
僕は動かない。彼女も動かない。 静かに奥に当たっていると、互いの体温までが同調して、本当にひとつの生き物になったような、深い一体感が生まれる。 しかし、その肉体的な安らぎとは裏腹に、精神は「見られている」「試されている」という執拗な羞恥心によって、鋭く切り離されていく。 この、身体の融合と心の分離。この矛盾こそが、彼女を追い詰める。
第二章:手を使わない責め
10分が経過した。 「よし、順調だね」
僕はそう囁くと、手は一切使わずに、顔だけを近づける。 まずは、彼女の頬に、フッ、と熱い息を吹きかけるだけ。 それから、鼻先に、瞼に、触れるか触れないかのキスを落としていく。
「……ん……」 彼女が身じろぎしそうになるのを、視線だけで制する。
時間をたっぷりと使う。顔、耳、首筋に最初は吐息だけ、そして、唇、その後、ゆっくりと少しだけ舌を這わせ、舐めるのは最後。時間はたっぷりある。あくまで、ゆっくりと。 僕の手は、ベッドに突いたまま。彼女の身体には触れない。 それでも、密着した下半身と、首筋を這う唇の感触だけで、彼女の神経は研ぎ澄まされていく。
20分経過。 彼女の呼吸は荒くなり、瞳が潤んで揺れ始めている。 それでも、腰だけは、石のように固めて動かさない。 (ご褒美……甘いセックス……) その一心で、彼女は僕の目を見つめ、耐え続けていた。
第三章:陥落の2分前
タイマーの表示が、残り2分を切った。 あと少し。ゴールは目の前だ。
僕は、無言で手を伸ばし、彼女の頭を少しだけ横に向けさせた。 耳を、僕の方へ向けさせるために。
「……っ」 彼女が警戒して身を固くする。 僕は、口の中の唾液を一度ごくりと飲み込み、水気を切る。唾液が耳の中に入らないようにするためだ。
そして。 一気に、彼女の一番弱い、耳の穴の内側に舌を突っ込み、ベロベロと激しく舐め回した。
「ひ、……あ、ああっ!?」 彼女の喉から、声にならない悲鳴が漏れる。 いつもなら、これだけであっけなくイッてしまう弱点。 自然に奥を締め腰を振って、絶頂へ駆け上がろうとする――
その寸前。絶頂の直前で、僕はピタリと舌を止めた。 寸止め。
行き場を失った快感の爆発。 その衝撃に、彼女の理性が吹き飛んだ。 脳からの「動くな」という指令が届くよりも早く、彼女の腰が、ガクンッ! と大きく跳ね上がり、痙攣してしまった。
第四章:凍りつく時間
「あーあ」
僕は、彼女の目を覗き込み、軽く、残念そうに呟いた。 そして、手元のタイマーを止める。
「まだまだ腰動かして?」
生意気なことをいうので、再び耳の中を舐める。言い訳できないぐらい腰を振らせてから、それでもイク直前で寸止めする。
「あーあ」
荒い呼吸をしながら、目を見つめつつ、唇を噛み締めて今度は言い訳しない。
表示は「29:17」。あと、43秒だった。
「はぁ……はぁ……、っ……」 彼女は、荒い息を吐きながら、絶望の色が滲む瞳で、恨みがましく僕を見上げている。 僕たちはまだ、繋がったままだ。 僕はまだ彼女の奥にいる。
彼女は、このゲームのルールの意味を、今、骨の髄まで理解したのだ。
僕は、彼女の目をまっすぐに見据えながらもう一度言った。
「あーあ」
そして僕は、無慈悲にタイマーのボタンを押した。
液晶の数字が「30:00」に戻る。
「じゃあ、30分ね」
と、彼女に見せる。
「無理です」とも「嫌です」とも言えない。許されていない。






